スビャトスラフ・リヒテル PRAGA<59>SS59年のライブだがこれがすごい!まさに迫真の演奏で、1楽章から強い緊張感を放っている。確か59年の他のライブでは最後に混乱をきたしてその後何十年も弾かなくなったのは有名だが、その当時の演奏がここまですごいとは思わなかった。スピード感あふれる終楽章はもう最後まで釘付け!
フリードリヒ・グルダ amadeo<67> SS
冒頭からのかなりのスピード感にまず圧倒される。その速さの中で引き締まった緊張感を持続し、聞き手をぞくぞくさせるような現代的なアプローチを随所で見せる。デッカの旧盤と比べて随分個性が出ており、これこそグルダ壮年期の賜物であろう。事実、グルダの月光や熱情は後期のソナタなどと違ってあまり何回も録音しておらず、それだけ完成しているということだろう。全体を見るとやはり1楽章が一番良いが、2楽章も全部の音が歌って聴こえてくるし、終楽章の勢いなどある意味凄い世界を構築していると思う(ただし表現がかなり鋭いので、賛否が分かれるところではあるが…)。ちなみに旧盤は終楽章の繰り返しを省略しているのが少し残念だ。
ヴィルヘルム・バックハウス LONDON<59> S+
昔から最も聴かれてきた録音だと思うが、今なお輝きを失わないその剛健な演奏はまさにドイツ人の遺産である。晩年なので少し丸みはあるが、他を寄せ付けない精神的な高みと一家言のような説得力のある演奏だ。これを伝統的でアカデミックな演奏と捉える人もいるが、もしそうだとしたら現代のアカデミックなど何の価値もないものになってしまうのではないか。
エドヴィン・フィッシャー EMI<35> S+
かなり古い録音だがそんなにノイズもなく、コテコテのドイツ人というべき演奏がよく聞こえてくる。ドイツ人の演奏というと何かこう伝統的でがっちりした堅い演奏を想像しがちだが、実際はそんなわけもなくオピッツなどの現代ドイツ人たちの音楽院制度に縛られたアカデミックさが堅過ぎるだけなのである。ペダルはかなりベタ踏みで、とりあえず縦より横の線の流れをとにかく重視して歌うのだがこれがほんと美しい。2楽章などバックハウスでも到達出来ない境地と言えるし、終楽章も独特でとても説得力のある演奏だ。
ヴァルター・ギーゼキング <39,40> S+
元祖速弾き!?まず1、3楽章のテンポに驚く。この時代にしてはかなり速いと思うが、全く弾き飛ばしている印象はない。意図したようなあからさまな表現も一切なく、あくまでも自然な感情表\\\出、これが音楽を深い部分まで掘り下げている。2楽章の表現は彼独特の飾りのない端正なもので、全体にも言えることだが緩急のつけ方も絶品で思わず聞き入ってしまう。続く終楽章のテンポはかなり速いが、現代の演奏を暗示するかのような内容。しかし、やはり最後のプレストの効果は弱くなってしまうのは仕方がない。
エミールギレリス DG<73> S+
まさに理想的な演奏。バックハウスなどドイツのピアニストはあまりこちらが演奏する上でも参考にならないが、この演奏なら良い意味での20世紀後半の規範として堂々と掲げることが出来る。構成や流れも明確、テクニックもとても優秀で立派な演奏だ。
グレングールド SONY<67>S☆☆
遅い!1楽章15分!?2楽章11分、3楽章5分半!?とテンポがまともなのは3楽章だけである。グールドのテンポは中間があまり無く極端に速いか遅いか決める傾向があるので、熱情では単に遅いテンポを選んだだけと言えばそれまでである。しかし、独特のタッチとペダリングで聴かせる力がすごいので、一見練習風景の録音かとも思えるほど遅い2楽章などもなぜかすごく音楽的。そこからつながる終楽章では目が覚めるような思いだ。ちなみに遅いテンポといえば、現代ではアファナシエフがいるが彼の音楽を聴く時のような気合いはグールドにはいらない。
ファジル・サイ NAÏVE<05>S☆☆
サイのベートーヴェンは大いに話題をよんだが、それは彼の録音が単に奇抜であるからという単純な理由だけではないだろう。彼は、(かつてグールドがそうであったように)全く違う角度からベートーヴェンの音楽に光を当てたのだ。第2楽章最後の変奏や終楽章には驚かされる。賛否両論なのは周知の事実だが、曲の随所に挑戦的とも思えるような新しい解釈を盛り込んでいて、聞き慣れた耳には新鮮である。拒絶する人ももちろん多いと思うが、この解釈を受け入れることの出来る懐の広さは今後必要ではないだろうか。ヴィルヘルム・ケンプ DG<51> S☆
バックハウスとケンプはドイツの二大巨塔のような感があるが、間違いなくベートーヴェンにおいてはケンプの方が個性的である。ニュアンスのつけ方といい、少なめのペダルといい、2楽章の変奏の妙な弾き方などかなり自由で驚く。ペダルが少ないのは彼のタッチの問題だろう。終楽章のタッチと旋律のレガートには耳を奪われる。
ヴラディミール・ホロヴィッツ SONY<72> S+
RCAの録音より随分ストレートな表現になっている。終楽章は相変わらず独特な感じがするが、1、2楽章は彼の音楽がすごく良い方向に向かっておりベートーヴェンの音楽と見事にマッチしている。
RCA<59> S
引退していた頃の録音で、さらにホロヴィッツのベートーヴェンというのは珍しい。決して評価の高い録音ではないが、ホロヴィッツマニアのための録音などでは決してなく、内容はなかなかのものである。むしろ1楽章などは下手なドイツ人よりよっぽど良い。ホロヴィッツの感じたベートーヴェンのロマンティックは随分現代人とは違ったのだろう。第2主題などにそういった部分が如実に表れている。確かに2・3楽章などは時折ちょっと違和感のある響きがする部分があるので、とっつきにくいと感じる人も多いとは思う。つまり稀代のヴィルトゥオーゾが弾くベートーヴェンは意外にもヴィルトゥオジティ溢れた演奏とは対極であったのだ。
ヴラディーミル・アシュケナージ LONDON<70> S
冒頭からわりと遅めのテンポで情感に溢れており、荒々しさはあまりないが緊張は緩むことなく、端正な表現の中にも若さみなぎる演奏だ。2楽章もあくまで真摯に、美しい響きで進んでいき粒立ちの良いタッチで弾かれる3楽章は力強さや推進力にも欠ける事なく、この曲において一つの理想の形を作っている。
ピーター・ゼルキン RCA<95> A+
全体にとても考え抜かれた演奏で昔の彼と違い、迷いが随分無くなっているのがよく分かる。2、3楽章はとてもゆっくりだがもっさりしておらず、勢いとスピード勝負のような3楽章の演奏に侵された耳には新鮮で、最後のプレストまではやはり本来はこれぐらいのテンポで弾くのがベストだと思う。しかし曲想として、やはり最初からテンポがあがってしまうのも悪いとは思わないが…。テンポがゆっくりなだけあって、飽きさせない工夫も少しみられる。
ジョンオコーナー TELARC<85> A
1、2楽章は可もなく不可もなくといった感じで優秀な演奏ではあるが、物足りなさを感じる。終楽章でやっと彼の個性がうかがえてくるといった感じだ。録音年代があまり古くないこともあってわりと現代的な弾き方をしてる部分もある。
Piano de Virtuoso




